2021年2月号

山中隆司

氷河の桃

ここには春になると桃がたわわに実る山があった。今では氷河があるだけだが奥には一本の桃の木の見ることしかできない。この物語はこの氷河が生まれるまでのお話である。
福原大輝

空の章

福原大輝 ユビキタス先生は子どもたちに向かって言った。「空を見てみなさい。あれが戦いの色だよ」 ミトは子どもたちと一緒に空を見上げた。いつもの、曇天のような鉛色の空だった。灰色の砂埃が舞っていて晴天であってもそう見えてしまうのだ。がれきの山...
平田ヘイデン

コーヒーブレイク

平田 ヘイデン 執筆していた論文の最後に入れたピリオドが集中を解く一滴の呼び水になった。 思考を占拠していた研究内容が霧散して、空っぽになった頭をドラミングしたくなるような愉快な気持ちが湧いてくる。「ふひ……へへへ」 まとめ終えた論文を保存...