山中隆司

山中隆司

常世の国への旅

山中 隆司今、私は見知らぬ山伏装束の男に掴まって空を飛んでいる。あたりは水の底を思わせるほど仄暗く、星明りを思わせるきらめきが点在している。このまま本当におばあちゃんに会えるのだろうか怪しい。なぜこうして見知らぬ男に掴まっているかというと、...
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赤い荒野

山中隆司行き先がわからないまま鉄道に乗ってどこかに向かっている。自分以外にもちらほらと見える乗客が手持ち無沙汰に外を眺めたり、飲み物を口にしたりしていた。外には植物一つない荒れ果てた土地が広がっている。明らかにここは日本ではない。 車掌が切...
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ジェニー夫人

今年で三十五歳になる。安楽椅子に座り、サイドテーブルに置かれている手紙を開封した。毎年、ライラックが咲くころになるとバラのスタンプが押された手紙が送られてくる。
山中隆司

行き場のない鳥

 三月一日は僕の通う県立船出高校の卒業式だ。ついにこの日が来てしまったかと思う。できれば来てほしくなかった。これまで小中高とトコロテン式に進学してきた。ついに自由になる。自由になるの嬉しいが、今は自由になりたくなかった。ようは大学に合格できなかっただけだ。
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氷河の桃

ここには春になると桃がたわわに実る山があった。今では氷河があるだけだが奥には一本の桃の木の見ることしかできない。この物語はこの氷河が生まれるまでのお話である。
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神様の箱庭

かつて八百万の神様たちは自身が支配する領地を巡って争った。争いは名前を口にするのも憚られる高位の一組の神様がこれは民のためではなく己の利益のために争っているとの発言したことにより争いは終結し神様ごとに任地が決められ
山中隆司

牧場の朝

ニワトリが鳴き声と共に牧場の朝は始まる。  隣では仲間のカイ号がまだ眠っている。  のどの渇きを潤すために水道に向かうと友人のミマサカ号がいた。ミマサカ号が私に気が付いたらしく声をかけてきた。彼とは同年代だが私と異なり小柄な体格をしている。