無色のコツ 第一回

ナタリー爆川 満244歳

○まえがき

「無職は案外難しい」
これは私が、無職の身の上になって痛感したことである。人々聞かせれば「何をおかしなことを言ってやがる」とドブネズミの死骸でも見るような目で私を見てくるのだが、仕方ないことである。この難しさは無職になった人にしか想像がつかないだろうことだからだ。
無職、それは社会的な地位や経済的な安定と引き換えに、身に余るほどの自由な時間を手にすることであると私は考える。無論、一部の例外を除いて、いつまでも無職でいることは出来ないから、私もいずれは就労することになるだけれど、この「時間の黄金時代」を、私は余すことなく謳歌したいと思ったのである。
そこで私は「より良い無職ライフ」を送るために、種々の工夫を凝らすことにした。前職の退職前から「予行演習」と称し、考案したアイデアの有効性を試すべく、多くの実験を行っていた。まことにアホーなことなようではあるけれども、私はいたって真剣です。
本文では、数々のアイデアのうちから、よりすぐりの方法を記載しております。意識したのは実践が容易であること、金銭的な負担が少ないことである。挑戦のハードルが低く、継続のしやすいことでなくては机上の空論になってしまいかねないからである。
今、無職の人も、そうでない人も、奇妙でいてかつ絢爛な無職の世界、その片鱗を覗いてみましょう。

○食事の時間を固定する

無職の人間を待ち受ける困難の一つが「生活リズムの崩壊」である。
生活リズムの崩壊は体調不良の原因に直結している。人間、体が資本である、という言説は全くもってその通りで、無職とて体が資本なのだ。健康でなくては無職ライフを楽しめないのである。
では、どうやって生活リズムを保てばよいのか。
「あああああっ、わかった、朝からジョギングせえとかぬかしよんねやろ。そんな七面倒なことができとったら苦労しとらへんわい、アホンダラぁ。無職時の人間の怠惰さをナメるな。霞食うたようなことほざいとったら、オドレの家に猿一万匹送り込んで暴れさすどぉ」
と、早とちりして喚き散らそうとしている方はどうか落ち着いて頂きたい。私とてランニングやジョギング等の重労働を朝から行うことの困難さを知っている。現に挑戦しようとして一日で懲りた。ゆえに大体案を提唱しようとしているのです。だから、猿の大群を送り込むのだけは勘弁してください。納得していただけたら幸いです、というか納得してください。では提唱しますね。
無職の人間が生活のリズムを保つ方法。それは食事を摂る時間を固定することである。
食事の時間によって、自身の体内時計の狂いを防ぐ、これが私流の生活リズム維持作戦だ。
この方法を選んだ理由の一つが、努力レベルの低さである。原則として、食事には努力が必要ないため続きやすい。食事は人間の生存に欠かせず、変な言い方をすればある種の「義務」である。どうせやらなければならないことであるならば、それを利用してやれば良いのである。
本作戦では、「体内時計の維持」を最優先事項とし、食事の栄養バランスや味などについてまでは追求しない。いわゆる「ちゃんとした食事」を意識しすぎると、ストレスが溜まり、食事時間の固定が面倒になってしまうからだ。最初からちゃんとやろうとしすぎるのは、物事の継続において最大の敵である。
だから、余裕が出来るまでは、なるべく簡単に摂取できる食べ物を選ぶのがよいだろう。菓子パンでも、コーンフレークでも、お茶漬けでも、なんならカップラーメンでもいい。
摂取する時間帯についても、固定さえしていれば人それぞれで構わない。朝型、夜型など人の体内リズムは千差万別だからである。だから、大事なのはどの時間であれ「一定のペース」を保つことなのだ。私の経験上、話だが決めた時間から一時間前後の誤差はあっても大丈夫である。一時間前後の誤差があれば、少々用事が入ったりしても、維持することは容易になるだろう。
無職という自由の時代を最大限に謳歌するためには「ほどほどの規則」が欠かせない。食事の時間を固定するという些細なことが、あなたの無職時代を輝かせる第一歩になるでしょう。(了)

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