短編集

八輪

女性の幸せとは何なのだろう。母はどんな花が好きなんだろう、どんな色か好きなんだろう。聞いてみたこももない私自身はじゃあ、何者なのだろう。父はどうだろう。妹たちは。
「このままでよろしいでしょうか」少女が言う。
「はい」答えた私自身が、何がだ、と眉間に皺を寄せる。
少女はこちらの表情に気がついていない。
思い出した。私はコンビニで買える宝くじのチケットを受け取っていて、それについて彼女は質問していたのだ。慌てた私は「ああ、」っと言う。
「はい」と怪訝そうに返事をする彼女を一瞥して、私は何も答えずにそそくさと店を後にする。
彼女の「はい」の言い方はまるで私の眉間の皺に気がついていたようであった。そうに違いなかった。
彼女は同僚だ。夜勤の仕事を終えた私は朝の6時にシフトインした彼女と交代になる。挨拶しかしない仲だし、気にはしていなかったが、私の存在を疎ましく感じているようだった。そういえば声をかけても返事をしないことがあったような気がする。
また明日だ、と顔を叩くイメージを頭に描きながら家路につこうと駅へ向かった。
駅に行くには歩道橋を越えて国道の反対側へ行く必要がある。わたしには習慣があって、必ず歩道橋の真ん中に来たら空の観察をする。
今日は月が出ていた。青い空に遠く佇む上弦の月は、ススキを飾れと、この先近い団子の季節を匂わせる。三日月は星々にどけどけといって、陣地取りに成功していた。
歩道橋を降りると小学校の前へ出る。ここは東北の田舎。子供の数が減るこの町の空気感はいまだ登校してこない子供たちの数少ない声をさらに彷彿とさせる。
午前6時5分を少し回るくらいだろうか。車の台数が増える。

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