また弁財天の歌が聞こえてきて
弁財天が私の枕元に座って、ビートルズの「レッド・イット・ビー」を歌っているという夢をみたことがある。
その歌声の美しさをどうにも忘れられず、自分の中に革命的な気持ちが湧き上がって、私はその夢を見た次の日に仕事を辞めることを会社に告げた。
半年後、退職の引き継ぎが終わってから、当時住んでいた愛知県を離れ、転職して大阪に引っ越し、バンド活動に、執筆に、とかく芸術的なものに一層熱を入れて過ごすようになった。忙しいけれど、かつて無い情熱を持って暮らせている。
弁財天を信じて良かった、と思っている。
でも、仕事選びだけは、革命的な気持ちに任せず、もう少しクールダウンして決めるべきであった。
働きだしてしばらく経って、内情に理解が深まるにつれ、現在の会社にいると今後確実に芸術活動に悪影響が出そうだなと考えたのである。あ、ちなみに、今の職場も選択して良かった部分も、もちろんあるから完全な間違いではないとは思う。それでも、大事に思うものを選び取っていかなくてはいけない。俺にとって大事なものは家族と友人と芸術だ。
過去に戻りたい、と思っても戻れないから、新しい道を模索することにした。俺のような自分勝手な人間は、企業側からすれば、本当にいい迷惑である。「申し訳ないなあ」という気持ちと「うるせえ、黙れ」という気持ちがルームシェアしているせいで心の中が毎日カオスである。
で、今、必死になって転職に必要な資格の勉強をしている。時間も労力も不足しまくっている中でも、やることができたなら、やろうと思える困難なら、多分それは間違った道ではないはずだ。
今度こそはうまくいくだろうか。「今とは違う方向に立ち向かっていく」ことができるだろうか。わからない。でも、もうここまで来たら破れかぶれだ。試せることは可能な限り全部試していきたい。何もやらずに立ち止まってすり減るよりは、たとえ逃げでも動きたい。
自分では初めての体験なのだが、この勉強している内容は複雑だし、かねてから興味あったわけでもなかったのだけれど、最近はなんとなく楽しいように感じている。
「もしかして、こんな風に勉強が楽しいと思える様になったのも、弁財天様のお計らい?」
ええ歳して頭に花が、変な匂いのする汚ったねえ花が、咲いている私を見て、弁財天も苦笑いしている。多分。(了)
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