蟲中天

平田 ヘイデン

 嫌いな上司を捕まえた。
 夜の公園で、コンビニの袋をぶら下げたそいつと、帰宅中のわたしはばったり遭遇した。押し付けられた仕事をようやく終わらせて疲労困憊していた私は、買い物かごを持って行くのと同じ無感情さでそいつの袖を掴んで自宅に連れて行った。上司は日頃の態度とは打って変わって大人しく着いてきた。
 上司を連れて入った浴室には、寝袋のような大きさのウツボカズラが浴槽に鎮座している。ゆるやかにくびれた壷型のボディが白熱電球の明かりをてらりと反射して艶めかしい。
 上司の腕を掴んでウツボカズラの前まで誘うと、上司は自ら進んでフタのような葉の隙間に足を入れ、もそりとその腹に収まった。
 緩く空いた壷口の部分から中を覗き込むと、消化液の中で揺蕩う数多の顔の中に、穏やかな表情の上司の顔があった。

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