タイムトリッパー政宗

マサユキ マサオ

 伊達政宗が私の学校に転校してきたのは、中学二年生になったばかりの春のことです。学年合わせて百人足らずの小規模校ですから、噂はたちまちのうちに広まりました。
「ねぇねぇ、隣のクラスに転校してきた男の子、伊達政宗だっていうのホント?」
「そうなのっ。武将よ、本物の武将!」
 政宗くんは、たまたま私の右隣の席になりました。授業が終わるたび、私たちの周囲には好奇心旺盛なクラスメートが集まってくるようになりました。
「ねぇねぇ、政宗くん、どうやって現代に来たの?」
「今度俺ら剣道の大会があるんだけど、先鋒やってくれないかな?」
「何言ってんだよ、伊達政宗って言ったら弓道だろうが」
「思ったんだけど、普段は眼帯つけてないんだね」
 政宗くんは、矢継ぎ早の質問についていけないのか、曖昧な笑みを浮かべ困惑していました。
「えぇと、ぼ、ぼく、剣道部や弓道部じゃなくて、テニス部なんだ……ごめんなさい」
 政宗くんは、まるでいじめられっ子のように表情をゆがめて言いました。それを見た私は、フツフツと政宗くんをいじめたいという欲望にかられてしまったのです。
 次の日から私は、政宗くんをいじめることにしました。
 毎日給食のパンを机の中にほうり込んでおいたり、筆箱の中を水糊でぐちゃぐちゃにしてあげたりしました。おかげで、政宗くんは日に日にやつれていき、私はとても満足しました。
 そんなある日のことです。五時間目の授業中、政宗くんが具合悪そうに手を挙げました。政宗くんは吐き気と頭痛を訴えていました。さっき政宗くんの牛乳に消しカスを入れておいたのがまずかったのかもしれません。
 私は保健委員だったので、政宗くんを保健室に連れて行きました。あいにく保健の先生は不在で、私は適当なベッドに寝ておくよう彼に指示して教室に帰ろうとしました。
 すると、政宗くんは不意に私の手を掴んできたのです。
「き、きみに伝えなきゃいけないことがあるんだっ!」
 私はイラっとしたので、政宗くんの脇腹を殴りました。
「ぐわっ! ゲホっゲホっ!」
「ふぅ、すっきりした。用件は何かしら?」
 政宗くんは涙目で語り出しました。
「じ、実は、ぼくは伊達政宗ではないのです」
 それから政宗くんは、普段からおかしな子なのですが、更に挙動不審な様子で何かを告げようとしました。
「ぼ、ぼ、ぼくは世界の改変を防ぐためにっ、こ、ここに来たはずなのに、ぼくはっ、ぼくはっ!」
 政宗くんは言葉を詰まらせ、顔を真っ赤にしています。
 私は思わず欲情して政宗君をベッドに押し倒しました。
「すべて忘れさせてあげるから、ズボンを脱ぎなさい」
「い、嫌だぁ!」
 私はかまわず政宗くんのズボンを脱がして写メを撮りました。
「いい? これをネット上に流されたくなかったら、私の犬になりなさい」
「嫌だぁ!」
 それから数分間の痴態は語るほどのこともありません。私は政宗くんを調教することに成功しました。
「ほら、ワンと言うのよ」
「ワンッ!」
「やっぱり猫がいいわ」
「ニャーッ!」
「未来のこともすべて忘れた?」
「忘れてしまったぁ!」
 私は、白痴のようになった政宗くんにキスをしました。
 次の日、学校に行くと政宗くんは妙に生き生きとしていました。楽しそうに友人と会話し、テニス部では筋が良いじゃないかと先輩に褒められて照れたりしていました。
 政宗くんが我に返るたび、私は彼の股間を握りました。
 一週間後、世界は滅びました。

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