天野満
空き家で肝試し
あるカップルが、肝試しに行った。場所は町外れの空き家。そこは瓦屋根の二階建ての家で、何年も放置されたまま、すっかり荒れ果てていた。
噂では、夜、屋敷の中に置いてある鏡を覗き込むと幽霊が映り込むのだという。
二人は庭に生い茂る雑草をかき分けて、割れた窓ガラスから空き家の中に侵入した。
「これはすごい」
「雰囲気あるねー」
家の中にはゴミが散乱し、カビの匂いが充満していた。タンスや食器など、生活用品は残されたままになっていたが、以前にも侵入者があったのか、めちゃくちゃに荒らされていた。
「あの鏡だよね」
二人が見つけたこの鏡こそが、この屋敷の噂の根幹である。夜、その鏡を見ると、自分の背後に例が映り込むのだという。
「俺が見てみるよ」
男は鏡の前に立ち、自分の姿を映した。
「変わったものは映ってないな」
「所詮は噂だよね-」
「もう帰ろう」
二人は外に出ようとして、入ってきたときに使った窓ガラスに向かった。
ギシッ、ギシッ。
屋敷の奥の方から床がきしむ音が聞こえてきた。そして、音はどんどん二人のほうに近づいてくる。ボロボロの服を着た男がカップルの方へ、少しづつ近づいてきていたのだ。
「なんかやばいって」
男は小さい声でなにかブツブツとつぶやいている。
「・・・・け」
「早く、早く逃げよう!」
「腰が、抜けて」
「出ていけぇ!」男が叫んだ。
カップルは半狂乱になりながら、空き家を飛び出した。あとを追ってきてはいないかと、男女は何度も振り返る。追って着てはいないとわかってからも恐怖にかられて、二人は走り続けた。そして、二人は寺を見つけて、そこに駆け込んだ。
「助けて、助けてください! 幽霊が、幽霊が! 僕ら取り憑かれてるかも!」
二人は寺の門を壊れんばかりに叩き続けた。
しばらくして、出てきたお坊さんに二人は支離滅裂ながら、ことの経緯を話した。
「あの家にはねえ、その、なんというか、家のない方が住み着いて居るらしいんですよ。警察には私から報告しときますから、あなたがたはもう肝試しなんてやめときなさい」
お坊さんはそう言って、二人を諭し、一晩だけ寺に泊めてあげることにした。
警察にはなんと報告したものか。いや、これは私の仕事なのだろうか。
寝床に向かう彼らの背中、そこから透けて見える向こう側の景色を見ながら、お坊さんは頭を悩ませていた。
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