天野満
ナタリー爆川(満244歳)
○改名
さらば、天野満よ。今までありがとう。
唐突ではあるが、ペンネームを変更することにした。
バンドを始めた際に、ステージネームを使ったりする人がいるが、私も例にもれない。
私は本名をもじり、244と名乗っていたが、せっかく七年間の時を経てバンドが再結成、もはや新人なのであるうえ、ステージでは極めて中性的な格好をしているのだから、ステージネームも変更したら良いのではないか、と思ったのである。
で、私は「ナタリー爆川244歳」を名乗ることにした。
読みは「ナタリーハゼカワニヒャクヨンジュウヨンサイ」である。
一見してからに、けったいなこの名前にも、ちゃんとした由来がある。私はネーミングに一家言ある人間だ。しらんけど。
まずはナタリーの部分だ。
もともと、私は「ヒッキー・セラヴィー」という名前を名乗ろうと考えていた。
ヒッキーと言うのは私の考えた架空のロックスターの名前で、セラヴィーと言うのはフランス語で「これが人生」という意味の言葉で、私の好きなバンドの曲名にもなっていた。で、その二つを足して名前っぽくしたのだ。
この名前を親友に話した際に面白いことが起こった。彼が別の友人に私を紹介した際に、記憶違いをして、ナタリーと紹介してしまったのである。
ナタリー、という名前に、なんだかポップな感情を覚えたために「ナタリー」を採用するに至った、というのが由来である。
続いて、「爆川」の部分についてだ。
爆、というのは私の大学時代のあだ名に由来する。
大学時代、私のあだ名は「ボム兵」であった。加入していたサークルの先輩が、新入生になんとなくの印象であだ名をつけるという遊びをしていた。他の同級生たちは「おめめ」「馬鈴薯」などの名前を授かり、私は「ボム兵」の名を授かった。
ボム兵。そう、かの有名なテレビゲーム「スーパーマリオ」に登場する爆弾にゼンマイと足のついたファンシーなキャラクターである。なぜ、私がボム兵なのか。理由はわからずじまいである。
不思議なことに、他の同回生たちのあだ名は広まることがなかったのだが、私の「ボム兵」だけは三日もしないうちに大学中の知り合い中に広まっており、今もなお、私は「ボム兵」と呼ばれている。そして、その名を気にいっている。だから「爆」の文字を取り入れた、というわけだ。
ちなみに「川」は私の好きな漫画「ドロヘドロ」に出てくる、会川というキャラクターからとった。食い意地の張った乱暴者だが、友達思いの良いキャラクターで、私のお気に入りだ。
「244歳」というのは何だ、というと、これにも理由がある。
ナンバーガール、という日本の偉大なロックバンドがいる。そのバンドのベーシスト、中尾憲太郎氏が「中尾憲太郎○○歳」と名乗っているのを、僭越ながら拝借させていただいた。中尾氏は実年齢を表記していらっしゃるのだが、私の場合はそこに「244」の数字を入れさせてもらった。
ずいぶん長くなってしまったけれど、天野満改め「ナタリー爆川244歳」をよろしくお願いします。過去と現在と未来、私の好きなものに溢れた名前で非常に気にいっているけれど、画数は縁起が悪くないだろうか、なんて気になったりして。でも、了です。ああ、了なんです。
「待って待って待って待って待って。俺の名前の要素がないじゃん。そうか、君はそういう奴だったんだな」
天野満がエーミールじみたことを言って、包丁を片手に病んだ顔つきでこちらを見つめている。俺はまだ死にたくない。
「満年齢にするわ」
俺はペンネームを「ナタリー爆川(満244歳)」に改めた。満が包丁を投げ捨てて私に抱きついてきた。刃物を投げるな、と彼に説教するのは怖いのであとにする。
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