原田
母
窓の外は雪混じりの雨足だった。少し遠くに聞こえる車の往来はまだ幼かった頃の我が家の前の道を彷彿とさせた。
そこには大きな木が何本も生え、大きな窓のむこうにカーテンとなって存在していた。それはもうない。
津波で塩害の犠牲となった木々の多くは朽ち、業者によって根本から切る羽目となった。
切った先に未来はない。再利用されない存在は僕らの知らないところで燃やされるだけだ。
病院の匂いがする。看護師の声にもそれが混ざっているようで、冷たい雰囲気を感じさせる。
私は椅子を窓側に寄せ外を眺めている。広がる田んぼの先に小さな町が見え、ガソリンスタンドと家電量販店の看板が目立っていた。遠くに焦点を合わせようと何度も工業港の煙突から出る煙を見ようとする。でもまた窓に映る自分の顔が浮かんでくる。
時刻は20時を回ろうとしていた。眠る母に向き直り、明日またくる旨を心の中で伝える。
私は昨日、ここへ来たのだろうか。
私は明日、ここへ来るのだろうか。
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