天野日記

天野満

◯貼り紙
「放置自転車 します」
 近所のコンビニの窓にこんな貼り紙がしてあった。
 放置自転車をしたらダメじゃないか。一個人ならまだしも、いや、それでもダメなんだけど、ましては一企業が店先に紙を貼り出して宣言するような内容ではない。
俺は考えた。店主の意図を。
 これは店主なりの社会に対するFxxk signなのかもしれぬ。接客業は大変だ。厄介なクレーマーが退去して押し寄せたり、フランチャイズ契約をしてる店なら本部からの突き上げが激しく、夜の目も眠れぬ日々を過ごすことになる。
 そんな日常に嫌気がさした店主は貼り紙に自らの人生のルサンチマンを託したのでないか。
 しかし、放置自転車とは。全身全霊のダークパワーを叩き込んでいるわりには随分と可愛いらしいものだ。
 改めて貼り紙をよく見てみると放置自転車、と、します、の間にうっすら赤字で「撤去」と書かれているのである。
赤字の部分が日焼けして、字が薄くなっていたのだ。

 全然、伝わってへんやないか。

 大量の放置自転車に囲まれながら俺は思った。
 そのうち俺の中に怨恨が芽生えて、ジブジブと。

【教訓】
・大切なことを強調しすぎると却って伝わりにくくなる場合がある。
・人生のルサンチマンを託すには、放置自転車は少し頼りない。
・そもそも放置自転車をしてはいけない。(了)

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